franzkafka1232005-03-30

部屋の灯りをパチリと消して、蒲団までの暗闇を酔漢のようにふらふら歩く。冷え切った毛布に包まり、体操座りのような格好で身体を抱え込み、明日という一日をイメージしてみるけれど、なかなかうまくいかない。わたしは誰かを幸せにすることができるのだろうか?そんな自問自答を延々と繰り返しているうちに、やがて朝がカーテンの隙間から顔をのぞかせる。置き時計、ポスターの中のカート・コバーン、スタンドライト、本棚、机の上にそっとおかれた英字新聞。カート・コバーンは不敵な笑みを口元に浮かべながら、じっとわたしを睨みつづけている。少しずつ、でも確実に光はあらゆるものの輪郭を際だたせていく。わたしは決まって頭から毛布をかぶり、6時32分に設定された携帯電話のアラームが鳴るのをじっと待ちつづけている。自分自身の身体のぬくもりや呼吸の音を感じていると、なんだか、なぜだか、気が狂いそうになる。わたしは誰かを幸せにすることができるだろうか?果てしない無力感が、わたしを完膚なきまでに押しつぶす。涙がこぼれる。アラームが6時32分を告げる。隣の部屋で眠っている母を起こさないように忍び足で階段を下り、玄関のドアを開けて、郵便受けから新聞を取る。行方不明になっていた女の子は、無事に帰ってきたらしい。